翻訳監修者 真鍋 俊明
『どうやら「病理診断はAIに取って代わられ、解剖だけが残る」という将来的なイメージがあるようで、学生勧誘の場面で「病理なんて将来性がない」、「解剖だけの病理には魅力がない」という話を耳にしました。その度に、そんなことはないと反論してきましたが、その根拠を示せ!と言われると私自身も心もとないのが実情です』と、今年の春ごろある現役の病理学教授からメールを頂戴し、夏には学生向けの講演会でお話することになりました。実際、世界各国でこの問題が提起されているようで、すでにアメリカでは、病理診断を担う病理医の頭の中を俯瞰するようなAIは未来永劫に作ることは出来ないという宣言が出され、日本病理学会も2021年8月17日付の「人工知能AIと病理医について」と題するステートメントを、病理医を目指す若い人たちへ向けて発信しました。近々、病理AIに関する様々な情報を提示し、開発者、利用者ともにどうあるべきかとの指針を盛り込んだ「病理AIガイドライン」なるものが日本病理学会から出されることになっていると聞いています。人工知能が人間の知能を超えるシンギュラリティ(技術的特異点)の時を2045年には迎えるとの予想もあって、その是非を含め将来どのような社会を作っていくべきかの議論が盛んになっているようです。この総評でも、3年前、病理診断AIに関して話題にしたことがあります。また、私事ですが、昨年“あいみっく”という雑誌に「遠隔病理診断ネットワークにおけるAIによる診断補助導入の可能性と展望」と題して病理AIにはどのようなものがあるか、その現状と将来展望について少し書かせて頂きましたので参考にして頂ければ幸いです。論文自体は、https://www.palana.or.jpに接続して頂ければ、読んで頂くことが可能です。
いずれにしても、現在この総評を読んでくださっている先生方が現役の間には、AIがいろいろな過程で手助けをしてくれることはあっても、病理医に取って代わることはないようです。言い換えれば、地道にJ-PIPを利用しながら、研鑽を積んでいかないと、我々病理医としての能力は日増しに衰えていくことはあっても向上することはない、病理業務は回らず、引いては患者その他の方々に迷惑をかけることになってしまう、そしてその迷惑を被るのは我々自身であるということになるのでしょうか。
さて、今回の正解診断一致率は、どの症例に関しても高く平均で96%でした。これにおごることなく、一致症例も不一致例ももう一度見直し、解説書を読みながら復習して頂ければと思います。いつもの繰り返しになりますが、生涯教育では、よく経験する疾患を見誤らないこと、稀な疾患を理解しておくこと、そして提示された疾患に対して既知の情報を復習するとともに、最新の知見を勉強することが大切です。学会などで行う症例検討会では、得てして稀な症例や引っかけ症例が多く提示される傾向があり、つい“当てもの”的になってしまいがちですが、このような態度は、生涯教育にあっては危険な面を含んでいるとも言えます。虚心坦懐に標本をみ、考え、診断すること、解答を得た後には復習し新知見の獲得に励む態度が必要です。
