総評

総評 (2022年 JPIP-A)

翻訳監修者 真鍋 俊明

昨年のことだったと思いますが、私の尊敬するある人が「あなたのまわりの七面鳥」という題で、寓話を交えながら品質活動についての講演をされたことがあります。非常に興味のある、考えさせられる話でしたので、この紙面で是非お伝えしたいと思います。
アメリカでは、毎年11月の第4木曜日は感謝祭(Thanksgiving Day)として家族や友人が集まり、七面鳥を焼いて食べ、その日を祝うことから、七面鳥の日(Turkey Day)とも呼ばれています。元々、イギリス国教会に反対した清教徒が国からの弾圧を逃れてイギリスのプリマスからアメリカのマサチューセッツ州、今のプリマスにやってきました。ピルグリム・ファーザーズと呼ばれる人たちです。1620年のことでした。彼らは、そこで農耕を始めましたがうまくいきませんでした。先住民の知恵と助けによってなんとか農作物を収穫できるようになった翌年に先住民を招待して収穫を祝い彼らに感謝する宴を開きました。これが感謝祭の始まりとされています。民族は違っても、先人の知恵は貴重であり、それから学び、継承することの重要性を教える記念日とも言えます。
うろ覚えですが、今回の「あなたのまわりの七面鳥」の話はこう始まります。ある感謝祭の日、七面鳥の丸焼きを作るお母さんに小さな娘が尋ねました。「どうして美味しいもも肉の部分を切り取るの? もも肉の部分を付けたまま焼けばより美味しくなるし、早く焼き上がるのに」と。お母さんは答えました。「それはね、ママのママ(ばあば)がそうしてやっていたからよ」。どうしてだろうなと思ったお母さんは、ばあばに聞いてみました。「それはね。ばあばのママ(ひいばあば)がそうやっていたからよ。当時はね、オーブンが小さくてね」と答えたそうです。昔のオーブンは小さくて、脚の着いた七面鳥をそのままオーブンに入れることが出来ないため脚の部分を切り落とさなければならなかったのですが、今のオーブンは大きくなっているため、わざわざもも肉の部分を切り取る必要は全くなかったのです。
このように、自分たちが行っていることの中には、『今まで行われてきたことだから』と理由も考えず、継承していることがあります。先人の知恵は確かに重要です。その時には大切であったり、便利であったり、そうせざるを得なかったものもあるでしょう。しかし、「『前からずっとそうだから』という手順は見直す価値があり、それは無駄の発見や手順の改善、改良、廃止にも繋がり得る。『あなたのまわりの七面鳥。どんなことがありますか?探してみましょう。なんでだろうとその理由や意味を考えてみませんか』」というお話でした。実際、検査の手順や特殊染色/免疫染色にしても必要とされる理由を考えず、『教科書に書かれているから』とか『今までやってきたから』とかで継続しているものも多いように思います。よく言うPDCAサイクルは改良・改善を図るために行うものですが、適当に廃棄し、そして時代に合ったように変革していくことも含まれています。体系的廃棄とイノベーションも検査室の継続的な品質管理には必要なものです。
 J-PIPB2022の結果です。今回の提示症例には普段それ程経験しないようなものもかなり含まれていましたが、正解診断一致率も非常に良い結果であったと言えます。「継続は力なり」です。これからもJ-PIPを利用して研鑽に努めて欲しいと思います。
いつもの繰り返しになりますが、生涯教育では、よく経験する疾患を見誤らないこと、稀な疾患を理解しておくこと、そして提示された疾患に対して既知の情報を復習するとともに、最新の知見を勉強することが大切です。学会などで行う症例検討会では、得てして稀な症例や引っかけ症例が多く提示される傾向があり、つい“当てもの”的になってしまいがちですが、このような態度は、生涯教育にあっては危険な面を含んでいるとも言えます。虚心坦懐に標本をみ、考え、診断すること、解答を得た後には復習し新知見の獲得に励む態度が必要です。

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