総評

総評 (2018年 JPIP-B)

翻訳監修者 真鍋 俊明

J-PIP2018Bの診断集計結果を見ると、症例11の肝多嚢胞性疾患、症例15の侵襲性血管粘液腫での一致率が低いようです。多くの人と異なる回答をされた方も、もちろん提示者と同じ診断、国際集計の総意診断と同じ回答をされた方も、解説書を読みながら自分の診断過程との違い、疾患についての新知見などを復習して頂きたいと思います。

さて、J-PIP担当者の方から、今回の総評も内容はカラム的なものをメインに、とのお話がありましたので、今度は病理部門の将来の方向性についての話題を提供したいと思います。

もう10年以上も前になるでしょうか。中堅どころの病理の先生との話の中で、「より正確な診断を早く得るためには、病理・放射線統合画像診断部門とでも言ったものが必要で、両部門は同じフロアにあって直ぐに互いに議論できる体制が求められるのではないか」との議論がありました。その時に「病理検体が病理組織診断だけに使われる時代はもう終わる。病理検体は、遺伝子検査その他にも分配され、それぞれのデータを統合し総合的に解釈する時代になるだろう。それを行えるのは病理医以外にはいない。また、臨床検査データとも突き合わせて病理診断を深化させ、より臨床診断に直結するようにならないといけないと思う。そのためには、遺伝子検査を含めた臨床検査データや放射線画像データ、病理検査データ(今の病理診断)が統合できるシステム作りが必要で、ここには同一患者のすべての情報が集められ、各検査者が容易にアクセスできるだけでなく、分析・統合・解釈できる人工知能ソフトを開発しそれが利用できるようにしなければならない。ただ、そこに行く前に、まず医療の中で、病理診断を含め、診断を的確に早くそして効率よく得るためには、どの時点で、どの検査をどう組み合わせれば、時間的、経済的によいのかを求めるいわば診断戦略学なる学問も必要だね」との話をした覚えがあります。つまり、各検査部門の統合が必要か、必要とすればどのような形態とすべきかの問題です。病気の診断を付けるに際して求められる効率には、検査効率、診断効率、医療効率などがあります。検査効率とは効率のよい検査工程を、診断効率とは如何に無駄のない少ない数の手段を使って安くそして早く診断するかの組み合わせ方法を、医療効率とは患者にとって精神的に、肉体的にそして経済的に負担なく、最良の結果を早く得るためどの治療をいつの時点で行うかを含めた一連の検査・医療行為の手順選択を求めるものです。前二者の効率は医療効率促進のためにあり、最終的には患者に如何に満足を与えることが出来るかにあるとも言えます。顧客(主治医、患者)の満足、医療効率を求める手段として検査データの統合は果たして可能なのでしょうか。

6~7年前だと思いますが、アメリカで、再度「臨床検査と病理検査の統合」を考えるという記事が出ていたことを覚えています。その時には、将来は臨床病理、解剖病理、分子病理といった検査部署の区別がなくなって、単にそれらを取り扱う“検査室”に戻るのではないかと予測されていました。一方で、小さな検査室で取り扱うならまだしも複数の病院から送られてくる毎日数百万件にも及ぶ検査を行う巨大な検査室ではデータの統合は不可能であろう、むしろ必要に応じてそれぞれの検査に必要な情報が容易にアクセスできるようなアプリケーションがあればその程度で良いのではないかというのがおおよその結論であったと思います。さてさて、さらに発達した最近のAI技術でどこまでの統合化がなされ得るのでしょうか。病理医の役割は、医療の体制はどのように変化していくのでしょうか。楽しみに待っているところです。

いつもの繰り返しになりますが、生涯教育の目的には、よく経験する疾患を見誤らないこと、稀な疾患を理解しておくこと、そして提示された疾患に対して既知の情報を復習するとともに、最新の知見を勉強することが大切です。学会などで行う症例検討会では、得てして稀な症例や引っかけ症例が多く提示される傾向があり、つい”当てもの”的になってしまいがちですが、このような態度は、生涯教育にあっては危険な面を含んでいるとも言えます。虚心坦懐に標本を観、考え、診断すること、解答を得た後には復習し新知見の獲得に励む態度が必要です。

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