総評

総評 (2017年 JPIP-A)

翻訳監修者 真鍋 俊明

医療は、速く、つまりその時点に即応した、時宜を得た正確な検査結果や診断を必要とします。然るに、長い間このような要求に答えられていませんでした。ところが、技術開発により、より少ない検体量で、ごく短時間で検査結果が得られ、しかも小型化され、持ち運びできるコンパクトな機器で検査ができるようになってきました。

臨床検査の分野で、POC(ポイントオブケア)検査が求められるようになって久しいものの、最近ではこれが実行できるようになってきています。POC検査とは、臨床現場即時検査とも呼ばれ、患者の傍で検査を行い、その結果を即座に医師が判断し、迅速な措置を施したり、治療経過や予後のモニタリングまでも行うことを言います。臨床検査は、個々の検査を個別的に行っていた時代から、病院の一か所に集めて行う中央検査室の時代を経て、今や希少検査を集め専門性ある検査行う検査室が分化・独立し、一方、病院などではルーチン検査を行う中規模検査室を有しながらに即時性を求められる検査は現場で行うような分散型検査室の時代へと移行しています。かなりの検査が、診療所でも即座にできるようになってきました。

病理検査、病理診断の分野でこのPOC検査に当たるのは術中迅速診断でしょうか。また、細胞診検体採取の現場へ出かけその場で標本作製・検鏡するのもこれに当たるでしょう。critical diagnosis(重大診断)という言葉があります。ある病理診断や病理所見に接した場合、即座に主治医へ連絡し、緊急に処置や治療に踏み切ってもらう必要のあるものを言います。The Association of Directors of Anatomic and Surgical Pathology (ADASP)はこれに関するガイドラインを提出しましたが、まだコンセンサスが得られたものではなく、各病院でそれぞれの分野の臨床医とともにその施設にあったものを作成するようにとされています。しかし、病理医が診断し重大診断だと判断しても、診断までの所要時間が掛かっていれば、その時点で既に手遅れであるということは多いと考えられます。アメリカで、よく揶揄的に言われる言葉に「病理医はなんでもするしいろいろよく知っているが、“時すでに遅し”である」がありました。このような状況に、患者のために働く病理医は、何時までも甘んじている訳には行きません。そのためには、技術革新を図り、病理検査を迅速化させ所要時間を短くする、そして病理診断の質向上のための仕組みを作り上げる必要があります。実際、もうそのような時代が近づいています。一方、診断力に関しては、個人の努力によるところがまだまだ大きいと考えられます。人工知能AIによる診断や診断補助はまだ先のことになるようです。いずれにしても、病理医の普段からの研鑚は不可欠です。

さて、今回の診断投票の集計については添付資料をご覧ください。症例2(バーキットリンパ腫)、症例4(化生癌、紡錘形細胞癌型)、症例5(粘液管状紡錘細胞癌)、症例6(粘液線維肉腫)では、世界での診断一致率から大きな差が見られますが、我が国での診断投票者数が39人ですので、何とも言えません。ただ、心トキソプラズマ症を除いては、我が国で比較的少ない症例で不一致率が高い傾向があるように思えます。このJPIPを通して、希少症例に触れ、マスターしていって欲しいと思います。

いつもの繰り返しになりますが、生涯教育の目的には、よく経験する疾患を見誤らないこと、稀な疾患を理解しておくこと、そして提示された疾患に対して既知の情報を復習するとともに、最新の知見を勉強することが大切です。学会などで行う症例検討会では、得てして稀な症例や引っかけ症例が多く提示される傾向があり、つい”当てもの”的になってしまいがちですが、このような態度は、生涯教育にあっては危険な面を含んでいるとも言えます。虚心坦懐に標本をみ、考え、診断すること、解答を得た後には復習し新知見の獲得に励む態度が必要です。

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