総評

総評 (2016年 JPIP-B)

翻訳監修者 真鍋 俊明

最近、我が国でも臨床検査室の品質と能力に関する国際標準規格ISO15189を取得する医療施設が多くなっています。国際共同治験等に係る厚生労働省の指導や臨床研究中核病院の施設基準、診療報酬における管理加算の算定などがその理由のようです。ISO15189の認定分野は、検体検査が大部分なのですが、病理学検査の認定も含まれています。JPIP 参加者の先生方の施設でも既に取得されたところがあるかも知れません。

先日、ある会でこの認定を行う日本適合性認定協会(JAB)に関係する講師の方の話を聞く機会がありました。ISO15189の一般的な説明に続いて、病理検査の認定分野が紹介され、初回審査申請に必要な書類と初回審査のスケージュール、本審査のやり方が提示されました。実際の運用についても話され、感染区域と非感染区域、毒劇物・有機溶剤や廃液の管理、外部監査と内部監査、力量評価と教育、外部精度管理と内部精度管理、妥当性の確認不確かさの推定などを個別的に上手くまとめて下さいました。そして、継続的改善を進めるための仕掛けが規格要求事項に多く存在しているので、品質マネジメントシステムを適正に運用すればPDCAサイクルが回るようになり、より良い臨床検査室、病理検査室が構築できるし、病理検査室から出される検査結果、診断の精度保障や作業の標準化だけでなく、病理検査室の従事者を守る環境を提供してくれると強調されていました。また、講演者は「ISO15189の認定では検査結果を正しく出すことが出来る能力と技術があるかを審査します。認定範囲のすべての作業については、その作業を遂行する能力が要求され、能力があって初めて質が担保されます。能力は力量評価によって客観性を担保し、力量不足と評価した作業については、教育訓練を実施し、能力を養います。力量評価は認定資格の重要な指標となります」「だれが検査や診断を実施しても、ある質を持った同じ結果が報告できること(均質化)が要求されます。結果を報告する場合、主治医が正しく診断、理解できるように、報告書を通して必要な情報をすべて与えなければならない」と話されていました。

この話の中で、一つ気になることがありました。「力量評価については、検査技師は非常に協力的かつ積極的なのだが、医師の参加や協力を得るのは非常に難しい」というのです。同じような話は、私自身が衛生検査所を査察した時や、講演で精度管理や技能試験の話をした時にも聞いたことがありました。つまり、医師は自分の行っていることは正しいと思いがちで、それを他の人から批判されたくないという意識が強いというのです。医師は誰のために医業をなすのか、病理医は誰のために業務を遂行するのか、その使命を考え、自らの質を高める行為を常に心掛ける必要があるのではないかと感じました。

さて、今回の診断一致率、診断の均質性は非常に高いものと言えます。ただ、症例16は多くの方(88%)が疣贅状癌と診断し、国際的な一致率(扁平上皮癌、低分化型;92.7%)と大きくかけ離れていました。また、症例20も国際的一致率が嵌入前置胎盤86.1%であったのに反し、わが国では26.8%で、63.6%の方が癒着胎盤と診断していました。この2症例については解説書を読み、どこが違っていたのかを検討しましょう。言い方を替えれば、この作業がPDCAサイクルを回すことに繋がることになると思います。

いつもの繰り返しになりますが、生涯教育の目的には、よく経験する疾患を見誤らないこと、稀な疾患を理解しておくこと、そして提示された疾患に対して既知の情報を復習するとともに、最新の知見を勉強することが大切です。学会などで行う症例検討会では、得てして稀な症例や引っかけ症例が多く提示される傾向があり、つい”当てもの”的になってしまいがちですが、このような態度は、生涯教育にあっては危険な面を含んでいるとも言えます。虚心坦懐に標本をみ、考え、診断すること、解答を得た後には復習し新知見の獲得に励む態度が必要です。

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