総評

総評 (2015年 JPIP-B)

翻訳監修者 真鍋 俊明

今回の成績は良いものとそうでないものが極端であった。回答統計資料を見ると、世界では、いずれの症例に対しても90%以上の一致率を示し、安定している。我が国では、全員正解例が3症例あり、90%台が2例、70と80%台が3例である。全員正解症例は症例11、12と20であるが、世界全体の参加者をみるとそれぞれ98%を超えているので、ケアレスミスがなかったというだけかも知れない。一方、我が国で一致率の低かった症例13(紡錘形細胞/多形性脂肪腫;48.8%)と16(びまん性大細胞型B細胞リンパ腫;58.5%)は、世界では96.4%、97.6%であったので、要注意である。紡錘形細胞/多形性脂肪腫はわが国でも比較的多く経験するので、良く認識しておかねばならない。びまん性大細胞型B細胞リンパ腫症例ではBurkittリンパ腫や濾胞性リンパ腫と診断された方がかなりおられた。免疫染色に頼ることが多いこの頃、診方を忘れたわけではあるまい。もう一度基本に立ち返る必要はないかを問おう。そして、幅広く勉強していくことも忘れまい。それぞれの症例の特徴は解説書にも書かれているので、再度診直しながら確認しておいて頂きたい。

最近は、デジタル画像をみて診断することが多くなっている。ガラス標本の診断と遜色がない。むしろ、標本の全体像と拡大像が同時にみられるので、誠に便利である。症例によっては、スキャン倍率のみで診断できてしまう。恐ろしい時代になったものである。デジタル画像をモニターでみるのは他の病理医との議論の際にも役立つし、アーカイブとして保管も、検索・再検討も容易となる。正に顕微鏡のパラダイムシフトと感じている。数年後にはデジタル画像でみるものを顕微鏡と呼ぶようになるのかも知れない。このJPIPも7年目を終えるが、赤字経営に陥っているという。その大半は郵送費、印刷代等にあるのではなかろうか。これからも円高の影響で経費がかさみ、参加費の値上げが余儀なくされることになるかも知れない。それなら、いっそのこと、JPIPの標本のデジタル化や解説書等のメール配信化を図ってみてはどうだろうか。経費の削減にも繋がる。観察手段は変われど、精度管理の目的は他病理医との比較の上に立った自己研鑽にもある。世界的視野を持ちつつ、我が国の病理診断精度の向上、世界標準維持のために、参加者には引き続きの参加をお願いしたいと思う。

いつもの繰り返しになるが、生涯教育の目的には、よく経験する疾患を見誤らないこと、稀な疾患を理解しておくこと、そして提示された疾患に対して既知の情報を復習するとともに、最新の知見を勉強することが大切である。学会などで行う症例検討会では、得てして稀な症例や引っかけ症例が多く提示される傾向があり、つい"当てもの"的になってしまいがちだが、このような態度は、生涯教育にあっては危険な面を含んでいる。虚心坦懐に標本を観、考え、診断すること、解答を得た後には復習し新知見の獲得に励む態度が必要と思う。

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