総評

総評 (2015年 JPIP-A)

翻訳監修者 真鍋 俊明

数日前、司馬遼太郎のいう「北のまほろば」で、病理医相手の講演と学生講義を行った後、旧仙台藩の学問所、有備館を訪れました。東日本大震災で倒壊したものの、現在復旧工事中でした。外観は完全に修復されていましたが、まだ内部は完成しておらず、見学不可能だという。本総評を書くべく準備し、講義を終えたばかりの身には、いつも復旧としての生涯教育が必要で、中身のない外見だけの実力では役に立たない、といった戒めを頂いたように感じられました。

さて、今回の結果です。非常に出来が良いと言えます。正解率は平均で84%近くとなっています。最高の正解率97.7%が3症例もありました。しかし、日本を除いた世界の正診率平均は95%でした。ずいぶん差が開いています。何が違うのでしょうか。一番の違いは、非腫瘍性疾患にあるようです。症例6のバッド‐キアリ症候群がそれです。同じバッド‐キアリ症候群である点は良いのですが、原発性か二次性かの識別が正しく理解されていないようでした。原発性は血管それ自体の閉塞や血栓症によるものをいい、二次性は血管外にその原因があるもの、つまり腫瘍その他の病変によって血管内浸潤を受けたり血管閉塞をきたしたものをいいます。本例の場合は、血管内に血栓が存在することが明らかですので、原発性となります。原発性とされた方が31.8%、二次性とされた方が56.8%でした。原発性のものには、凝固因子の異常をきたす遺伝性のものと真正多血症を含め骨髄増殖症候群や発作性夜間血色素尿症、経口避妊薬によるものがあります。いずれも血栓の形成をきたします。病気の定義を正しく理解しておかなければなりません。

次に、正解率が低かったのは、症例2の神経節神経芽腫です。神経節細胞腫とされた方が20%強おられました。各参加者にそれぞれ違う組織切片を配布するので、我が国以外の病理医の正解率が93%であるといえども、神経芽腫の成分が出ていないものが届けられた可能性も否定できません。もう一度標本を見て確認しましょう。

いつもの繰り返しになりますが、生涯教育の目的には、よく経験する疾患を見誤らないこと、稀な疾患を理解しておくこと、そして提示された疾患に対して既知の情報を復習するとともに、最新の知見を勉強することが大切です。学会などで行う症例検討会では、得てして稀な症例や引っかけ症例が多く提示される傾向があり、つい"当てもの"的になってしまいがちですが、このような態度は、生涯教育にあっては危険な面を含んでいるとも言えます。虚心坦懐に標本をみ、考え、診断すること、解答を得た後には復習し新知見の獲得に励む態度が必要です。

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