総評

総評 (2014年 JPIP-B)

翻訳監修者 真鍋 俊明

今回の回答者総数は37名といつもに比べ少数でしたが、正解率、一致率が高く、非常によい結果となっています。ただ、我が国を除いた全世界の正解診断の一致率と比較してみると少し劣る結果でした。特に、症例17(堤防細胞血管腫)では、我が国が64.9%、世界で95.6%、症例20(腎芽腫)ではそれぞれ78.4%、98.0%と下回っています。

医師が下す診断は、個別診断、専門医診断と総意診断に分けることが出来ます。病理診断も同様です。一人の人が付けた診断が個別診断、その一人の人がその分野の専門家であるとみなされる人であればそれは専門医診断となります。一方、例えば100人の病理医が診てその多くの人が一致した診断を下したものが総意診断と呼ばれます。我々人間には絶対的真実が分かりませんので、この総意診断を持って正しい診断(正診)としています。専門医が自分のアイディアで特異な疾患をみつけたり、診断基準をみつけ、検証し多くの人から認められると、それが新たな正診となります。そして、それによって人口動態統計や予後が分かり、臨床的取り扱いや治療法が決まるようになりますので、どの国であれ、どの国のどの病院であれ、同じ患者を診た場合同一の診断を下すことが求められます。しかも、同一人が時間を変えて検討しても同じ診断が下されるようでなければなりません。そのため、臨床医としての病理医は、既知の疾患でも、新しく規定された疾患概念でも、その診断基準を知り、その診断能力をいつも一定水準に保つようにしなければなりません。それは、我々病理医に求められるのは、安全性であり、精密度であるからです。この一定水準を保たさせる目的で行われるのが生涯教育です。生涯教育が求めるのは、自らが我が国での水準や世界の水準に達しているかを調べ、診断力の向上とその維持を図ることです。そういった意味で、最近JPIP回答後に配布されてくる我が国と世界の診断統計資料をみて、実力向上の励みにしていって頂きたいと思います。

いつもの繰り返しになりますが、生涯教育の目的には、よく経験する疾患を見誤らないこと、稀な疾患を理解しておくこと、そして提示された疾患に対して既知の情報を復習するとともに、最新の知見を勉強することがあります。学会などで行う症例検討会では、得てして稀な症例や引っかけ症例が多く提示される傾向があり、つい"当てもの"的になってしまいがちですが、このような態度は、生涯教育にあっては危険な面を含んでいるとも言えます。虚心坦懐に標本を見、考え、診断すること、解答を得た後には復習し新知見の獲得に励む態度が必要です。

「継続は力なり」と言いますが、JPIPの受講を続け、診断率、一致率が常に高く維持されることを願っています。それが、個人のみならず我が国の病理診断の質の向上、精度の向上に繋がっていくものと信じています。

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