総評

総評 (2014年 JPIP-A)

翻訳監修者 真鍋 俊明

前回の総評で、「個別的に正解率の低いものをみていくと、二つのことが分かってきました。まず第一は、感染症や非感染性炎症性疾患などの非腫瘍性疾患での正解率が低いこと、第二は、腫瘍性疾患は比較的正解率が高いものの、我が国では珍しい腫瘍やマントル細胞リンパ腫や脾臓辺縁帯リンパ腫などのリンパ腫になると正解率が低いことでした。病理医の仕事は腫瘍の診断だけではありません。また、国際化が進んだ現在今までに見たことのないような感染症や腫瘍を経験することも多くなってきています。今後これらの点を考慮に入れて、勉強していく必要があるのではないかと思われました」と述べました。

今回の症例に関しての診断集計では、線維莢膜細胞腫の29.3%との落ち込みはあるものの、腫瘍性疾患全体では85.7%、線維莢膜細胞腫を除けば95.1%の正解率です。線維莢膜細胞腫は、線維腫‐莢膜細胞腫群として一括されていますが、両者を分けて捉える研究者、病理医もおられます。背景の考え方や捉え方は解説書にありますので、ご覧下さい。全世界参加者サマリーの結果をみると、我が国の成績は腫瘍全体では遜色ありませんが、これに反して線維莢膜細胞腫でも91.2%となっており、ひょっとすると世界のスタンダードについて行っていないのではないかとの疑いが持たれます。

問題なのは、非腫瘍性疾患です。症例4のフソバクテリウム・ヌクレアタム感染、症例9の肉芽腫を伴う慢性腎盂腎炎、症例10の橋本甲状腺炎、線維萎縮亜型です。我が国参加者の正解率はそれぞれ24.4%、48.8%、63.4%でした。全世界参加者では、それぞれ87.4%、96.2%、95.2%で、明らかな違いがあります。どうしてこのような差がついたのでしょうか。いくつか考えてみました。我が国では、罹患疾患の質や量が違うということはないだろうか。清潔な国となり、特殊な感染症に罹患する者が減ったということはありそうです。また、病理医や臨床医の傾向として、腫瘍を中心として考え、炎症性疾患を軽視する態度がありはしまいか。そのため、多くの炎症性疾患の原因や病理発生のメカニズムを深く考えることなく"単なる炎症"として終わっていることが多くはないか。しかし、病理医は、例え稀な疾患、感染症であれ、知っておくべきです。最後に辿り着いたのは教育です。病理医に対する教育は偏りなく幅広く行われるべきで、病理医は好き嫌いにかかわらず勉強すべきです。それが生涯教育の目的で、繰り返しなされるべきです。果たして、このような教育を我が国で行っているのだろうか。この結果をみながら反省させられました。

最後に、いつもの繰り返しになりますが、生涯教育の目的は、よく経験する疾患を見誤らないこと、稀な疾患を理解しておくこと、そして提示された疾患に対して既知の情報を復習するとともに、最新の知見を勉強することです。学会などで行う症例検討会では、得てして稀な症例や引っかけ症例が多く提示される傾向があり、つい"当てもの"的になってしまいがちですが、このような態度は、生涯教育にあっては危険な面を含んでいるとも言えます。虚心坦懐に標本をみ、考え、診断すること、解答を得た後には復習し新知見の獲得に励む態度が必要です。皆さん、炎症性疾患、感染症もしっかり学びましょう。

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