総評

総評 (2013年 JPIP-B)

翻訳監修者 真鍋 俊明

前回の総評で述べた正解率の推移について、2008年から2013年までの結果を調べてみました。演習問題がスタートした2010年前後で分け比較してみると、一番落ち込みが強かった2009年のBでの63.0%を除いたスタート前の正解率が82.1%、これを含めて計算すると77.3%であったのに反し、スタート後では一番低かった2011年Aの71.3%を入れても平均83.9%でした。確かに、演習問題が加わることによって教育効果が少し上がったように思われます。しかし、個別的に正解率の低いものをみていくと、二つのことが分かってきました。まず第一は、感染症や非感染性炎症性疾患などの非腫瘍性疾患での正解率が低いこと、第二は、腫瘍性疾患は比較的正解率が高いものの、我が国では珍しい腫瘍やマントル細胞リンパ腫や脾臓辺縁帯リンパ腫などのリンパ腫になると正解率が低いことでした。病理医の仕事は腫瘍の診断だけではありません。また、国際化が進んだ現在今までに見たことのないような感染症や腫瘍を経験することも多くなってきています。今後これらの点を考慮に入れて、勉強していく必要があるのではないかと思われました。

さて、今回の症例です。偽膜性大腸炎、ポイツ・ジェガーズポリプの正解率はともに100%でしたし、その他の腫瘍性疾患も多くの参加者が正解を得ています。ところが、症例17の胎盤の水痘・帯状疱疹ウイルス感染は48.6%と非常に低い正解率でした。送られてきた回答はかなり分散していましたが、その中でもトキソプラズマ症とした回答者が24.4%もおられました。先天性トキソプラズマ症は、妊娠中にToxoplasma gondiiに初感染することで起き、胎盤では絨毛への慢性炎症細胞浸潤、Hofbauer細胞の増加と巣状の壊死性絨毛炎、トキソプラズマの偽囊胞や急増虫体の存在がみられます。トキソプラズマの偽囊胞は絨毛マクロファージや毛細血管内皮、栄養膜細胞などの中にみられることがありますが、肉芽腫性絨毛炎はまれです。この症例では、広範な肉芽腫性炎症を伴う慢性絨毛炎が見られます。類上皮細胞やリンパ球からなる病変が存在し、絨毛を拡大させ絨毛間腔にも及んでいます。乾酪壊死像は見られません。多核巨細胞にはVZウイルス感染に特徴的な核内封入体が認められます。巣状の石灰化も見られます。その他選択肢にある病原体や封入体はみられません。このVZウイルスの胎盤内感染症の組織学的特徴を覚えておきましょう。

いつもの繰り返しになりますが、生涯教育の目的には、よく経験する疾患を見誤らないこと、稀な疾患を理解しておくこと、そして提示された疾患に対して既知の情報を復習するとともに、最新の知見を勉強することが大切です。学会などで行う症例検討会では、得てして稀な症例や引っかけ症例が多く提示される傾向があり、つい"当てもの"的になってしまいがちですが、このような態度は、生涯教育にあっては危険な面を含んでいるとも言えます。虚心坦懐に標本をみ、考え、診断すること、解答を得た後には復習し新知見の獲得に励む態度が必要です。

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