総評

総評 (2013年 JPIP-A)

翻訳監修者 真鍋 俊明

記憶に頼った印象ですが、このプログラムが我が国でスタートした始めの数年に比べれば正解率、一致率は最近確実に高くなったといえると思います。勿論、各症例の難易度もありますので、いつかデータを集めて検証してみたいと考えています。ただ、これも印象ですが、高くなってきた頃は演習問題を始めた頃に一致するのではないかと推測しています。設問自体が正解に辿り着くヒントとなることがあるかも知れませんが、それはそれでよいことだと言えます。いろいろな可能性を考え、症例の特徴や鑑別疾患について成書で調べようと努力することが大切で、記憶にも残り易くなります。繰り返し繰り返し行うことによって更に記憶に残ります。こういった行為や記憶は日常診療においても必ず役に立ちます。今回の中では、症例8の「シャガス病、移植後の急性再活性化」例がこれに当たるのではないでしょうか。こんな感染症など我が国には少ないから必要ないなどということはありません。世界はグローバル化し、狭くなっています。病原体の形態には熟知しておきたいものですし、病歴や出身地などから考えるべき病原体などを考えることが出来るようにしておきたいものです。

正解率が低かった症例2について書いておきます。悪性の上皮成分と悪性の紡錘形細胞成分が混在して認められる症例です。現在の肺癌のWHO分類の定義では、肉腫様癌には多形癌と紡錘細胞癌、巨細胞癌、癌肉腫および肺芽腫が含まれています。癌肉腫は、本質的には多形癌と同一の概念ですが、肉腫様の成分の中に悪性の異種性成分への分化がみられる点で多形癌と分けられます。つまり、骨や軟骨,骨格筋成分を混じるものを言い、それらを欠き紡錘形細胞、巨細胞を混じるものは別の概念で捉えられているのです。両者の識別点をよく理解しておき、実務に当たっては、異種性成分の有無について十分に観察するようにしましょう。

「勝って驕らず、負けて悔やまず」全問正解の方も、そうでない方も、今後もJPIPの受講を続け、診断率、一致率が常に高く維持されることを願っています。それが、個人のみならず我が国の病理診断の質の向上、精度の向上に繋がっていくものと信じています。

いつもの繰り返しになりますが、生涯教育の目的には、よく経験する疾患を見誤らないこと、稀な疾患を理解しておくこと、そして提示された疾患に対して既知の情報を復習するとともに、最新の知見を勉強することが大切です。学会などで行う症例検討会では、得てして稀な症例や引っかけ症例が多く提示される傾向があり、つい"当てもの"的になってしまいがちですが、このような態度は、生涯教育にあっては危険な面を含んでいるとも言えます。虚心坦懐に標本をみ、考え、診断すること、解答を得た後には復習し新知見の獲得に励む態度が必要です。

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