総評

総評 (2012年 JPIP-A)

翻訳監修者 真鍋 俊明

今回はほぼ各症例とも正解率、一致率が高く、非常によい結果となっています。

正解率が低かったのは症例2でした。腸間膜線維腫症(MF)と回答された方は63%で、孤立性線維性腫瘍(SFT)と答えられた方が22.2%にも及んでいました。本症例では、組織学的に、おとなしい形態の細長い波状の紡錘形細胞から構成され、長い束状の配列や、短い細胞束が不規則に配列する領域がみられたり、全体的な細胞密度は低いものの、いくつかの標本では中等度の細胞密度増加を認める所、明らかな膠原に乏しい所、別の部分ではケロイド様の密な膠原が巣状に認められる所がありましたし、うっ血を伴う壁の薄い小血管が目立つ所もありましたので、孤立性線維性腫瘍と思われたのかと推察します。MFでは、腸間膜脂肪や腸壁などの周囲組織に浸潤性に増殖し、しばしば指状に突出するという特徴があります。一方、SFTでは浸潤性の場合でもMFのような特徴はあまりみられません。細胞像では、MFでは紡錘形細胞は均一で異型を欠き、先細りの細胞質が波打つような形態や、ときには星芒状の形態を示します。核は細長く繊細で明るいクロマチンを有し、小型の核小体を認めます。核分裂数は少なく、壊死はありません。SFTでは核は卵円形を示すものが多く間質のバリエーションがより著明です。いわゆるパターンレスパターンです。血管周皮腫でみられるような枝分かれする血管が明瞭です。以上の肉眼的および組織学的所見を考慮すると、本例はMFに一致するといえます。さらに鑑別点を求めるとすれば、免疫染色を行って特異的なものはないものの、SFTでほぼ100%がCD34陽性、bcl2陽性であるが、MFではCD34は陰性であることを確かめることだと思います。

症例8、症例10についてもコメントしておきたいと思います。症例8はPEComaでした。perivascular epithelioid cellはmyomelanocyteとも呼ばれていたように、平滑筋細胞とメラノサイトの性格を示します。そのため、転移性のメラノーマ(悪性黒色腫)もPEComaと捉えられたり、また平滑筋肉腫と見なされることも起こり得ます。本例の場合も9.3%の参加者がメラノーマと診断されていました。組織学的には血管との関係やメラニンの存在などが鑑別として役立つことがありますし、免疫組織学的にSMAとS100のどちらが陽性であるかをみることが大切です。いずれにしても、epithelioidな細胞からなる腫瘍の場合の鑑別診断にはこのようなものがあることを常に頭の中に残しておかなければなりません。症例10は腺房細胞癌です。膵臓の内分泌腫瘍と答えられた方が11%もおられました。両者が形態学的に類似して見えることはよくあります。組織学的には内分泌腫瘍では胞巣状のパターンがより目立つ傾向があり、核クロマチンはsalt-and-pepper状です。腺房細胞癌では核は偏在し一見観兵状にしかも2列に並んで見えることがありますし、一般に核小体が明瞭な傾向があります。鑑別困難な場合は免疫染色を行ってみましょう。

いつもの繰り返しになりますが、生涯教育の目的には、よく経験する疾患を見誤らないこと、稀な疾患を理解しておくこと、そして提示された疾患に対して既知の情報を復習するとともに、最新の知見を勉強することがあります。学会などで行う症例検討会では、得てして稀な症例や引っかけ症例が多く提示される傾向があり、つい"当てもの"的になってしまいがちですが、このような態度は、生涯教育にあっては危険な面を含んでいるとも言えます。虚心坦懐に標本を見、考え、診断すること、解答を得た後には復習し新知見の獲得に励む態度が必要です。

「継続は力なり」と言いますが、JPIP の受講を続けていかれ、診断率、一致率が常に高く維持されることを願っています。それが、個人のみならず我が国の病理診断の質の向上、精度の向上に繋がっていくものと信じています。

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