総評

総評 (2011年 JPIP-B)

翻訳監修者 真鍋 俊明

今回は、診断投票者が少なく、37名の方々から回答を頂いたのみでした。精度管理の中には、observer's variationを知る目的があります。自分がどの位の位置にあるかを知り、それを励みとして自己の研鑽に努めます。その意味でも、出来る限り多くの方に参加して頂き、信頼性の高い診断分布を得た上で自らの立ち位置を把握できるようにして欲しいと思います。

今回一致率が低かったのは、症例25と症例29でしょうか。

症例25では富細胞型神経鞘腫と診断された方が35%もおられました。富細胞型神経鞘腫では、Antoni B領域が10%未満と細胞密度が高く、Verocay bodyが見られないことが多く、核分裂像も多数見られることもあり、誤って悪性とすることがあります。ただ、悪性末梢神経鞘腫瘍MPNSTに見られるような濃染するクロマチンを有する核や未分化な細胞はみられません。鑑別にはS-100やCD57、MBP、それにp53が役に立ちますので、これらの免疫染色でその動態を確認すると良いと思います。富細胞型神経鞘腫では、S-100はび漫性に陽性で、MPNSTでは陰性のことが多いので、これをヒントに考え直すあるいは安心感を得ると良いかも知れません。

症例29では、腺成分が存在すること、その腺成分が形態学的に良性であることをに気付くことが大切です。腺成分があれば子宮内膜間質肉腫や未分化肉腫とは言えません。癌肉腫は、上皮成分も非上皮成分も悪性で、腺肉腫は良性の腺上皮成分と悪性の非上皮成分からなるものです。腺肉腫では、しばしば腺管の周囲が高細胞密度となっており、弱拡大でもcambium layerの形成や葉状構造パターンがみられるので、ミューラー管由来腺肉腫が想起されます。腺肉腫は癌肉腫よりも侵攻性が低いので、間違わないようにしましょう。

いつもの繰り返しになりますが、生涯教育の目的には、よく経験する疾患を見誤らないこと、鑑別疾患を考え鑑別する癖をつけること、稀な疾患を理解しておくこと、そして提示された疾患に対して既知の情報を復習するとともに、最新の知見を勉強することがあります。学会などで行う症例検討会では、得てして稀な症例や引っかけ症例が多く提示される傾向があり、つい"当てもの"的になってしまいがちですが、このような態度は、生涯教育にあっては危険な面を含んでいるとも言えます。虚心坦懐に標本を見、考え、診断すること、解答を得た後には復習し新知見の獲得に励む態度が必要です。

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