総評

総評 (2011年 JPIP-A)

翻訳監修者 真鍋 俊明

今回はひねりの効いた問題が多かった所為か、診断正解率の低いものがありました。症例1、4、6、8がいずれも50%前後でした。

症例1は二つの意味で難しかったと思います。まず腎髄様癌は極めて稀であり、アフリカ人、アフリカ系アメリカ人で鎌状赤血球症の人に見られます。我が国では殆ど見ることがありません。組織学的にも集合管癌に類似して見えますし、事実集合管癌の一亜型ではないかと考える研究者がいます。更には、本症例の病歴に民族が書いてありませんでした。しかし、腫瘍は髄質に中心を置くと記載されていますし、組織像をよく見ると、血管内の赤血球に鎌状の形態のものがあるのに気付きます。これに気付くと、診断は容易になったのではないでしょうか。腫瘍成分以外にも目を向ける必要もあります。

症例4では病歴や腫瘍の存在位置を確認することが重要です。本腫瘍は、おとなしい組織像を示しますので、線維性骨異形成(FD)や低異型度の骨線維肉腫と考えられた方が多かったのでしょうか。線維性骨異形成様亜型の骨肉腫の存在も知られていますので、二重の意味で鑑別を要します。通常FDではレ線上で骨皮質破壊像がなく、組織学的に異型のない紡錘形細胞の増殖とwoven boneの形成が見られます。顎骨、頭蓋骨、大腿骨、脛骨に好発します。低悪性度の骨線維肉腫では、皮質の破壊が明瞭で周囲軟部組織への浸潤が明瞭、均一な紡錘形細胞がherringbone patternを示し、osteoidの形成を伴いません。

症例6では、ヘアリー細胞白血病やマントル細胞リンパ腫とされた方がおられました。前者は、赤脾髄の疾患で、pseudosinus formationが明瞭ですが、本症例にはみられません。後者では、mantle zoneの拡大を示しますが、本症例では消失しています。現在、リンパ腫や白血病の診断には、免疫染色やフローサイトメトリーの結果や染色体検査、その他の情報が必須となっています。組織像では、腫瘍の存在位置や広がり、組織の基本構築像の破壊の仕方、細胞像、細胞の多彩性や単一性などが重要な手がかりを与えてくれます。

症例8でも、病歴が役に立ちます。47歳女性と比較的若い方で、C.Difficileによる偽膜性腸炎の危険因子でもある造血幹細胞移植歴を有しています。虚血性の変化に乏しく、ヘモジデリンの沈着もありません。また、放射線の影響による血管の変化や異型腺管や異型線維芽細胞もみられませんでした。

いつもの繰り返しになりますが、生涯教育の目的には、よく経験する疾患を見誤らないこと、鑑別疾患を考え鑑別する癖をつけること、稀な疾患を理解しておくこと、そして提示された疾患に対して既知の情報を復習するとともに、最新の知見を勉強することがあります。学会などで行う症例検討会では、得てして稀な症例や引っかけ症例が多く提示される傾向があり、つい"当てもの"的になってしまいがちですが、このような態度は、生涯教育にあっては危険な面を含んでいるとも言えます。虚心坦懐に標本を見、考え、診断すること、解答を得た後には復習し新知見の獲得に励む態度が必要です。今回は、病変の存在部位や病歴からどのような鑑別疾患や鑑別点を考えていくかのヒントについて学べたと思います。

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