総評

総評 (2010年 JPIP-A)

翻訳監修者 真鍋 俊明

今回から、「演習問題」を標本配布に併せて提示することに致しました。標本をみて組織診断を付けるだけではなく、鑑別疾患や鑑別点、その疾患の特徴などの知識を整理して欲しいとの意図です。標本閲覧時に併せて勉強し解答されても良いですし、あるがままの知識で解答しておき、解説書を入手後にもう一度検討したり、解説書読破後に解答しても良いと思います。御自分のお考えに応じてご活用下さい。ただ、問題の内容を忖度し診断を考えることのないようにしたいものです。

さて、今回の症例に関しては、概ね診断の正解率は非常に高いものでした。

症例6は嫌色素性腎細胞癌の症例でした。その他の腎癌を考えられた方がかなりおられました。この腫瘍の細胞学的、構築的特徴を覚えておきましょう。2核細胞、干しブドウ状の核と核周囲明帯は特徴的です。確かに淡明細胞腎細胞癌で顆粒状好酸性細胞質を有するものやオンコサイトーマとの鑑別が難しい場合があります。実務にあたっては、特殊染色や免疫染色を利用する必要もあります。Haleのコロイド鉄染色が有用ですが、染色が薄いこともよくあります。免疫染色でCK7、EMA、parvalbuminが陽性、vimentin、CK20、AMACRが陰性であることが役立つ所見です。

症例7は高分化型膵内分泌腫瘍でした。細胞形態や時に偽乳頭状構造を作るなど充実性・偽乳頭腫瘍に類似することがあります。後者では、20歳代前半を主体とする女性に多いという特徴がありますので、この診断を想起したときには臨床所見を見直してみると良いでしょう。合致しがたい場合は、再考を要します。その他鑑別点については解説書を参考にして下さい。

症例9では、ライディク細胞腫、セルトリ細胞腫と回答された方が多くおられました。発生年齢、腫瘍の局在、ラインケクリスタルや腺腔構造の形成がみられるか等に注意しましょう。

症例10では、紡錘形細胞からなる腎悪性腫瘍の鑑別が問われています。どこの腫瘍でもそうですが、紡錘形細胞、円形細胞、多形性の強い細胞からなるなど分化の低いものでは、腫瘍全体を走査して、分化方向を示す領域を探し出すことが大切です。本腫瘍の場合、淡明細胞腎細胞癌の成分が一部に存在しています。そのため、本体が腎細胞癌であることが確認されます。

いつもの繰り返しになりますが、生涯教育の目的には、よく経験する疾患を見誤らないこと、鑑別疾患を考え鑑別する癖をつけること、稀な疾患を理解しておくこと、そして提示された疾患に対して既知の情報を復習するとともに、最新の知見を勉強することがあります。学会などで行う症例検討会では、得てして稀な症例や引っかけ症例が多く提示される傾向があり、つい"当てもの"的になってしまいがちですが、このような態度は、生涯教育にあっては危険な面を含んでいるとも言えます。虚心坦懐に標本を見、考え、診断すること、解答を得た後には復習し新知見の獲得に励む態度が必要です。今回も、鑑別疾患や鑑別点を考えるヒントについて学べたと思います。

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