総評

総評 (2009年 JPIP-A)

翻訳監修者 真鍋 俊明

今回の問題では、症例1の結節性悪性黒色腫と症例10の乳頭状腎細胞癌の診断一致率が低くなっていました。特に症例1では、58%の参加者がそれと診断し、29.1%の人が転移性乳癌、10.9%の人がメルケル細胞癌と診断されていました。

癌の皮膚転移は比較的稀ですが、これが生じた場合は予後不良の徴候となります。皮膚転移は70歳代に最も多く見られ、女性では乳癌で最も多いとされています。しかし、近年、乳癌がより早期に発見されるようになったため、皮膚転移の発生率は減少しているようです。乳癌の転移は胸壁に最も多く、頻度は低いものの上肢や頭皮にもみられます。従って、本症例の場合も乳癌の転移を考慮に入れることは重要なことです。しかも、乳腺の低分化乳管癌の転移は、未分化な大型の細胞が高頻度の核分裂像を伴って真皮内にシート状増殖を示し、結節型悪性黒色腫に類似することがあります。

しかし、皮膚で原発か転移かわからない症例に接した場合、たとえメラニンの存在が確認出来なくとも、そして上皮様で核小体が明瞭な腫瘍の場合には、必ず鑑別診断として悪性黒色腫を考え表皮をくまなく検索することと、免疫組織学的にメラノーママーカーを使って調べておくことが大切です。

メルケル細胞癌は、通常、高齢者の日光露出部の皮膚(頭頚部および腕)に発生し、性差はありません。時に、上層の表皮にBowen病や扁平上皮癌を伴ったり、稀に表皮内にメルケル細胞癌の胞巣が存在することがありますので、要注意です。しかし、メルケル細胞癌では独特の広がり方や核の繊細なクロマチンと核小体の不明瞭さ、ミットとボールと称されるnuclear molding 様の変化を見ます。皮膚でのblue cell tumorあるいはsmall round cell tumorの鑑別には必ず挙げておかなければいけないのが、この腫瘍です。

症例10では集合管癌と診断された方が30.9%も占めていました。集合管癌は腎癌の中で稀な腫瘍で、1%未満を占める程度です。多くの病理学者は除外診断的に本腫瘍を捉えています。増殖パターンは管状または管状乳頭状で、乳頭状の陥入は通常小さいものが多く見えます。腺管は不整形で、線維形成性間質を伴い、一般に核異型度が高度で、一部では鋲釘状の形態(hobnail pattern)を認めます。泡沫状マクロファージや砂粒小体は稀です。乳頭状腎細胞癌の2形態については良く見慣れておきましょう。乳頭状腎細胞癌は通常型腎細胞癌よりも予後は良好ですので。免疫染色では、集合管癌はRCC(-)、CD10(-)であるのに反して、乳頭状腎細胞癌はRCC(+)、CD10(+)を示すこと、レクチン(Peanut lectinやUlex europaeusAgglutinin)は集合管癌で強陽性になるが、乳頭状腎細胞癌では陰性であることも鑑別のポイントとなります。

いつもの繰り返しになりますが、生涯教育の目的には、よく経験する疾患を見誤らないこと、稀な疾患を理解しておくこと、そして提示された疾患に対して既知の情報を復習するとともに、最新の知見を勉強することがあります。学会などで行う症例検討会では、得てして稀な症例や引っかけ症例が多く提示される傾向があり、つい"当てもの"的になってしまいがちですが、このような態度は、生涯教育にあっては危険な面を含んでいるとも言えます。虚心坦懐に標本を見、考え、診断すること、解答を得た後には復習し新知見の獲得に励む態度が必要です。

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