総評

総評 (2008年 JPIP-B)

翻訳監修者 真鍋 俊明

生涯教育の目的には、よく経験する疾患を見誤らないこと、稀な疾患を理解しておくこと、そして提示された疾患に対して既知の情報を復習するとともに、最新の知見を勉強することがあります。学会などで行う症例検討会では、得てして稀な症例や引っかけ症例が多く提示される傾向があり、つい"当てもの"的になってしまいがちですが、このような態度は、生涯教育にあっては危険な面を含んでいるとも言えます。虚心坦懐に標本を見、考え、診断すること、解答を得た後には復習し新知見の獲得に励む態度が必要だと思います。

さて、今回は比較的素直な症例が出されています。そのためか、正解率の高い症例が多かったようです。幾つかの症例を見てみましょう。症例21はリンパ管腫です。正解率は35.1%と低く、57.4%の方が堤防細胞血管腫と診断しています。医療の鉄則として"ある所見を見た場合、稀な症例のコモンな所見よりも、コモンな症例の稀な所見をまず考えろ"との格言がありますが、脾臓独特の稀な腫瘍をまず考えるよりも、脾臓で最もコモンな腫瘍から考えていきましょう。また、堤防細胞血管腫は独特な形態を示しますので、特徴を掴んでおいて下さい。

症例22は、膵管内乳頭粘液性腫瘍に発生した粘液癌の症例でした。どこの臓器であっても、in situ carcinomaに接した場合にはどこかにinvasiveな成分はないかを慎重に見ていきましょう。膵管内病変の場合も、予後に最も影響を与えるのは随伴する浸潤癌の有無です。従って、IPMNの症例でも浸潤成分を除外するために、検索を十分に行う必要があります。浸潤癌が優勢な場合は診断は浸潤癌とし、IPMNの合併として記載しましょう。浸潤癌成分で最も多いのは粘液癌で、腸型のIPMNに合併します。

血管肉腫とカポシ肉腫は時として鑑別困難なことがありますが、症例24は比較的定型的な血管肉腫の症例です。カポシ肉腫はスリット状の血管腔と単調で低異型度の紡錘形細胞から成るのが特徴です。また、AIDS患者に多いので病歴に注意したり、人種を確認しておくことも大切です。

症例28を膵臓内迷入脾に関係した類表皮嚢胞とされた方が31.5%も居られました。組織学的には本例のリンパ上皮性嚢胞との鑑別が最も困難です。リンパ上皮性嚢胞では、その壁は固有のリンパ組織から成り、類表皮嚢胞にリンパ組織を見る時は脾臓の構造内つまり赤脾髄内のものである点が特徴的です。その目でもう一度標本を見てみましょう。その他の症例は一般的に高い正解率を示していました。

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