総評

総評 (2008年 JPIP-A)

翻訳監修者 真鍋 俊明

生涯教育の目的の中には、よく経験する疾患を見誤らないこと、稀な疾患を理解しておくこと、そして提示された疾患に対して既知の情報を復習するとともに、最新の知見を勉強することがあります。学会などで行う症例検討会では、得てして稀な症例や引っかけ症例が多く提示される傾向があり、つい"当てもの"的になってしまいがちですが、このような態度は、生涯教育にあっては危険な面を含んでいるとも言えます。虚心坦懐に標本を見、考え、診断し、復習、新知見の獲得に励む態度が必要だと思われます。また、もう一つの目的は、専門医診断expertdiagnosisとの違いのみならず、他の参加者の診断を知ることによって総意診断consensusdiagnosisからの隔たりを知り、自らの精度管理を行うことにあります。

さて、今回は難易取り混ぜた症例が出題されていますが、全体として参加者の診断は専門医診断に一致するものが多く、総意診断と専門医診断との差は少なく、比較的良くできていると言えます。症例1のサイトメガロウイルス肺炎とニューモシスティス肺炎の合併はよく見られることです。日常業務でも一方には気が付くものの、しばしば片方を見逃してしまうことがありますので、注意が必要です。ほとんどの参加者がその轍を踏んでおりません。一方、癌の診断に関しては、腺癌でよいのですが、その背景を読み切っていない参加者が多かったのが症例6だと言えます。確かに、診断すべき疾患の重要度には違いがあって、癌などの生命予後に関係するものさえ見逃さなければよいと考えがちですが、患者のQOLやその後の疾病の発生を予知させる所見を指摘するのも病理医の務めだと思います。診断の一致率の低かった症例に、症例2と5があります。症例2では組織学的には難しくとも、免疫組織化学の結果を知れば、もっと正解者が多くても良かったと思います。症例5については、非定型的カルチノイドと診断された方がかなりおられました。両者の鑑別点についてはしっかり押さえておきましょう。症例9についても分類の基準、その意義について確認しておきましょう。

もう一度、解説書を読みながら、標本を見直し、復習して頂ければと思います。

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